「チチー？腹減ったんだけど」
おまえに食わせるような飯はないと。
言ってやれたらどんなにすっきりするだろうか。
０２ 見下して嘲って それから優しく髪を梳いて
あぁ、腹が立つ。
リビングのソファのど真ん中に、
金髪の不良が我が物顔で偉そうに腰掛けている。
「・・・・・・手ぐらい洗ってきたらどうだべ？」
自分でかなり満足した出来の、グリーンが美しい抹茶のパウンドケーキ。
まるまる一斤にたっぷりのホイップクリームを添えてテーブルに置いた。
「さっき川で洗ってきた」
『そんなんで洗ってきたことになるわけないべ。ちゃんと洗面所で洗ってこないならやらねぇかんな』
そう言い返せないのは、何故。
自問してみる。
そんな自分の心の葛藤などお構いなしで。
さっそく、とばかりに節くれ立った長い指が、意外にも繊細な手つきでフォークを手にした。
ふかふかのグリーンに、銀のフォークが埋まっていく。
見た目が不良のクセして手づかみで食べないところだけは、褒めてあげても、いい。
たった１年。
されど１年。
年月は夫の見た目どころか性格まで変えてしまったというのか。
最近、妙な言動が目立つ。
今までしなかったことをしたり。
今まで言わなかったことを言ったり。
そうして散々私を困らせる。
そしてその様を見て、面白がっていることを、ちゃんと、分かってる。
それなのに。
何を要求されても、断れないのは、何故。
また、自問。
そんなの、答えなんて。
「チチ、」
目の前が。
山吹色に染まった。
「ベッド、行こう」
その言葉に。
弾かれたように、彼を見上げた。
昼間から何を考えているのだ、と。
怒鳴り返す術を。
「なぁ、いいだろ」
あぁ、また。
その瞳に、盗られてしまうのだ。
何も答えられない私を見て、その唇が半月型に歪んでいく。
どうしよう。
かたい腕に抱き上げられ、寝室へ。
揺られながら、彼を見上げる。
その唇は、嘲ったまま。
乱暴にベッドに放り投げられる。
彼があのシフォンケーキにしたみたいに。
繊細な手つきで、その指が私の首筋や、耳や、頬を這せて。
楽しそうに、嘲ってる。
嬉しい。
私であなたが満たされるなら。
もう、それで、
いい。
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